ニュージーランド出身のシンガーソングライター。2014年にセルフ・タイトル『Aldous Harding』でデビュー。PJハーヴェイの作品で知られるジョン・パリッシュらをプロデューサーに迎え、その唯一無二のスタイルを確立。本作は名門〈4AD〉から通算5作目のスタジオ・アルバムとなる。
1曲目「I Ate the Most」の冒頭、シンセのリフと淡々と歌われる声だけで一気に引き込まれる。ミニマルで余白の多い音像は静かに進行するにもかかわらず、得体の知れない緊張感を漂わせ、その感触は大げさに言えば『KID A』を初めて聴いた時の印象に近いというか、感情を排した冷やかな不安定さを感じさせる。
続く「One Stop」はメロディは親しみやすいが、背後で鳴るピアノの旋律が異様で、「こんなアレンジを選ぶのか」と思わされるような猛烈な不安感・孤独感を纏わせている。H. Hawklineとのデュエットも独特の違和感を生み出している、アルバム中もっとも開放的に聴こえる「Venus in the Zinnia」ですら、どこか足場の定まらない感触を残す。
アルバム全編を通して、このミニマルな緊張感は一貫して保たれている。しかし音色や曲調、歌唱の表情は実に多彩で、同じ空気感を維持しながらも絶えず新たな景色を見せてくれる。共同プロデューサーのジョン・パリッシュによる仕事も大きいのだろう、細部まで緻密に設計されたプロダクションによって、インディ・フォークでありながらアンビエント的ともいえる不思議な空間感覚が持続する。
近年のインディ・フォークにありがちなカントリー由来の土着性はほとんど感じられず、むしろUK~ヨーロッパ的な音響感覚で構築されたフォークという印象が強い。その点で、例えばAdrianne Lenkerのようなアメリカーナの系譜に立つシンガーとは明確に異なる魅力を放っており、同種の表現者をすぐには思い浮かべられないほど孤高で、現代のインディ・フォークの中でも極めて異質の存在だ。
[favorite tracks]
M1:I Ate the Most
M2:One Stop
M10:Coats
