Mitski(ミツキ)は、日本生まれ・NYを拠点に活動する日系アメリカ人のシンガーソングライター。2012年のデビュー以降、『Be the Cowboy』(2018)などで高い評価を受け、2023年には「My Love Mine All Mine」が世界的に大ヒットした。
アコースティックな手触りは前作『The Land Is Inhospitable and So Are We』(2023年作品)からの踏襲で、それ以前の作品にあったような過激さ・エキセントリックさや直接的な感情爆発のような表現からは一歩引き、本作はより優しくオーガニックな響きをたたえた印象で、過去作の中でも、最も彼女の「歌」を堪能できる作品だ。カントリーやアメリカーナ、フォークに寄ったサウンドは、これまでのインディー・ロック寄りの荒々しさを背景にしつつも、その表情を穏やかに整える。
だが、耳を澄ませばその優しさの裏側には不穏さと微細な狂気が張り巡らされている。
モチーフとなるのは「荒れた家の中に引きこもる女性」という比喩性の高い設定であり、主人公は退廃した精神と記憶に取り憑かれたように家の中で彷徨う。リードトラックである「Where’s My Phone?」は、ポップな曲調ながら携帯電話を失くした焦燥感と混乱を執拗に繰り返される問いかけによって構成され、終盤では不穏なノイズにまみれて終わる。
「In a Lake」や「If I Leave」「Dead Women」など各曲も、静謐な音像を足場に、孤独や不安、そして隠し切れていない死と喪失のフィーリングがにじみ出ている。
ジャズ風でフルートのような音が心地よい「I’ll Change for You」でグラスを重ねる音や談笑の声が聞こえた瞬間、自分がこの作品の世界の中にいるような感覚が強調されるようでハッとする(談笑の中にいるのではなく、孤独の中からその光景を覗き見ているような感覚)。
最初聴いたときはさほど印象に残らなかったラスト曲「Lightning」が、何度か聴くうちに不穏な魅力に気づかされ、日本語リリックビデオを見てさらにのめり込む。これは死と生まれ変わりについての歌。終盤、嵐のように荒れ狂うビートとギターが、落ち着きと静寂に導かれ、最高に不穏な形で作品は幕を閉じる。「私が死んだら、雨になって帰ってこれる?」
Mitski – Lightning (Japanese Lyric Video)
やさしさの裏にある、喪失と葛藤に彩られた、魔力的な魅惑がある一枚。
[favorite tracks]
M2:Where’s My Phone?
M7:I’ll Change for You
M11:Lightning
2026年6月リリース作品


